スペイン発の高級ブランド「バレンシアガ」の2023年春夏コレクション広告が海外で大炎上しました。現在は公式SNSなどから問題になった画像はすべて削除され、ブランドとして正式な謝罪文を掲載していますが、原因になった画像を入手し、何が問題だったのか、改めてチェックしてみました。
そしてその奥に隠された児童ポルノにまつわるさらに深刻な問題について、具体的に海外メディアからの引用も含めてお伝えします。
問題の画像はこれ
子供の持っているぬいぐるみに注目
公式SNSからはすべて削除されていますが、問題になった画像はこちらです。
the brand “Balenciaga” just did a uh….. interesting… photoshoot for their new products recently which included a very purposely poorly hidden court document about ‘virtual child porn’
— shoe (@shoe0nhead) November 21, 2022
normal stuff pic.twitter.com/zjMN5WhZ0s
4-5歳くらいの女の子がクマのぬいぐるみをもってそれぞれソファとベッドの上に立っています。炎上したのはこのクマのぬいぐるみの格好。ボンデージを付けたBDSMそのままを幼女に持たせるのは何事か!と怒りを買います。
欧米は幼児虐待に関しては、日本では考えられないほど厳しく、子供の裸の写真などは性的虐待とみなされ一発レッドカード沙汰!
日本人なら自分の子供のお風呂シーンなど可愛いと思って撮ってしまいますが、うっかり海外でその写真が見つかろうものなら、どんなに親子が仲良しで虐待の事実はないと訴えても親は警察へ、子供は児童保護施設へと引き離されたりします。
私は海外で暮らしていたことがありますが、住んでいた地域では14歳以下の子供を家で留守番させるのは違法で、高校生以下の子供だけで公共交通機関で隣の大きな町に出かけることも禁止されていました。
人気TV番組『はじめてのおつかい』がNETFLIXで海外視聴者から「考えられない!」と話題になりましたが、日本人の小・中学生が電車通学したりするのもかなり驚きをもって捉えられているんですよね。
子供の権利保護という観点、ましてや性的搾取に関しては一切の言い訳を認めない厳しい姿勢です。
ところがこの写真は匂わせるどころか、明らかにそれとわかる性的なものを、子供に持たせるというのはクマさんのぬいぐるみだからといって許されませんでした。
さらに大きな問題の箇所
さらに問題を大きくしたのはバッグの下にある一見何の変哲もない書類。
拡大表示してみても分かりにくいので、こんなの良く見つけたなと思いましたが、アメリカの児童ポルノ規制法の一部(バーチャル児童ポルノ)を表現の自由を制限していると判断した連邦最高裁判所が違憲判決を出した判決文(出典:アシュクロフト対表現の自由連合裁判Wikipedia)だと特定されました。
児童ポルノに肯定的とも受け取られかねないこの判決文に対して、バレンシアガが賛同しているという意図を持っているとしてさらに炎上。
広告撤回と同時にバレンシア側は法的措置について言及していましたが、問題発覚の3日後の2022年11月25日、バレンシアガはこの広告を制作したプロダクションNorth Six, Incとセットデザイナーのニコラス・デジャルディン氏とその会社に対して、2,500万ドルの損害賠償を請求する裁判を起こしました。
訴訟文では問題の引き金となったボンデージのクマを使用したことに対しての言及はなく、最高裁判決文をセットとして撮影に使ったことに対しての訴えだと海外メディアは伝えています。(出典:New York Post)
広告撤回という商業的な損失だけでなく、社会的にバレンシアガがこの判決文の趣旨に賛同しているというイメージがついてしまったことによる、ブランドイメージ棄損という点について日本円にして約35億円という巨額の損害賠償も当然と言えるのかもしれません。
なお、当初批判が集中したカメラマンのガブリエレ・ガリンベレ氏は、謝罪したうえで、クマのぬいぐるみ含めセットはすべて用意されたものを純粋に撮影しただけということと、判決文の映った写真については自分の作品ではないということをSNS上で表明していて、今回の裁判の対象にもなっていないようです。(出典:Instagram)
背後に何らかの意図が働いた?
それにしても、日本人は比較的性表現に対して欧米よりかなり規制がゆるいので、同じことが日本で起こったのならまだわかりますが、海外でしかも意識の高いハイブランドがこのような表現をするのはすこし考えづらいくらいです。
炎上広告と言えば、バレンシアガは度々コラボしてきたラッパーのカニエ・ウェストを大規模デモが起こった「BLM(ブラック・ライブズ・マター)は詐欺」と発言したことや「White Lives Matter」と書かれたTシャツを公の場で着用したこと等を問題視し、2022年10月下旬に公式サイトで一切の関係を断つと表明したばかり。
ここからは私の推測ですが、ブランドを守るためにカニエ・ウェストを「切った」ことに対し、現在のアメリカにおける過剰なまでのポリコレ(Political Correctness:性別・人種・宗教などへの差別的表現を排除し中立的な表現を用いること)に対する抗議として、セットを準備したスタッフの誰かが意図的に紛れ込ませたのではないかと感じました。
このシチュエーションで、仮に文章が一部でも映るとしたらバレンシアガのブランド哲学など少なくともブランドに関連する文章を映り込ませるはずですし、手元にあった紙が偶然児童ポルノ法に関する裁判所の判決文だった、など絶対にありえません。
万一偶然手元にその紙があったとしても、何が書いてあるか理解していれば隠そうとするはずです。この撮影現場を任されているのは素人ではなく、超一流ブランドと契約できるほどのプロ中のプロ。いくら過激にエッジを効かせようと思っていようとも、社会的なNGラインは肌感覚として分かるはずです。
訴えられた会社の関係者かは分かりませんが、撮影現場にアクセスできる誰かが意図的に準備したものと考えて間違いないと思います。
バレンシア側の動きの速さもそうですが、炎上繋がりでカニエ・ウェストの元妻で、バレンシアガともコラボ歴のあるキム・カーダシアンまで炎上の火の粉がかかるなど、子供に対する性的搾取はどんな形でもあってはならないことという欧米社会の強い憤りの波を感じます。
とはいえポリコレが過剰なまでに要求されて、息苦しさを感じる人が相当数いるというのもまた事実なのではないでしょうか。
イーロン・マスク氏がTwitter社を買収して風穴を開けようとしているのもその辺りなのかなと思います。
どんな展開になるのか今後の裁判の行方を見守りたいですね。