中国清王朝を舞台にした浅田次郎のベストセラー小説『蒼穹の昴』が2022年10月から初めて舞台化され、宝塚歌劇団で上演されています。実は2010年に日中共同制作でドラマ化されており、西太后役を田中裕子さんが務めたことで、日中両国で話題になったのをご存知でしょうか?
実は田中裕子さんは中国の50歳代以上で知らない人がいないほどの超有名人!なぜ田中裕子さんがそれほど中国で人気なのか、ドラマ『蒼穹の昴』の評判やまた実際西太后と田中裕子さんは似ているの?ということについて画像も調査してみました。
西太后役と似ている?
写真の比較
早速、田中裕子さんと本物の西太后の写真を比較してみました!
まずは田中さん。この衣装だけでかなり雰囲気がありますね。
一方本物の西太后はこんなお顔です。歴史教科書にも出ている一番有名な写真で晩年のものだと言われています。
これは!
かなり似ていませんか?!
2010年中国でこのドラマが放映された際、中国でも「似ている!」と大いに話題になりました。地元の夕刊紙も、整形外科医のコメントとして、相似度は70%と非常によく似ているという分析結果を伝えました。(出典:鳳凰網)
なお、宝塚の西太后役の一樹千尋さんの画像も見てみました。
さすがに宝塚メイクなので、似ているとは判別できませんが、権力者としての風貌は一樹さんが一番迫力がありますね。
ドラマの評判
2010年当時も中国では100局近くチャンネルがある中で、スタートから視聴率は5%と好調。日本でもNHK総合で放送された際の最終回は6.3%と日曜日23:00-23:45の放送枠の番組としては好調だったようです。
実は私、この放送を中国で見ていたのですが、ドラマでは田中裕子さんがバリバリの中国語でびっくりしたのを覚えています。でも、口元を見ていると全然合っていないので、案の定吹き替えでした。
田中裕子さんは事前に中国の歴史に関する知識を学んだり、西太后が実際暮らした紫禁城や頤和園という古跡を訪問して生活環境を体感したりして撮影に臨んだと言いますが、さすがに中国語で流暢にセリフを言うというのは無理がありますよね(^^;)
実は田中裕子さんがしゃべれる中国語は「ニーハオ」と「シェシェー」、他に知っている単語は横浜の自宅の近所にある「小肥羊」という中国火鍋店の名前だと言います。
小肥羊は中国人ならだれでも知っている有名レストランチェーンなので、これは「私が知ってる日本語は『かっぱ寿司』です」とハリウッドスターがいう感じでしょうか。なかなか中国人的にはツボなジョークにもなりました(笑)
西太后の歴史的評価は西洋列強の侵略を許し清王朝を滅亡に追い込んだ悪女として、中国では評判が悪く、実はこのドラマのキャスティングも西太后役がなかなか決まらなかったと言います。
そこで白羽の矢が立ったのが、中国で知名度が高く人気のある田中裕子さん。日中共同制作の歴史大河ドラマということで、原作こそ浅田次郎さんなのですが、脚本・監督・キャストもほぼ中国人の撮影現場。言葉が通じない中で演技をするのはかなり大変だったと言います。
田中さんは相手が何を言っているか分からなくて、自分が次のセリフに入るきっかけが分からず、中国人の俳優さんたちが田中裕子さんのセリフ分まで時間差を考えて次のセリフを言ったと言います。
田中裕子さんは最初こそ不便さを感じていたものの、心の言葉が通じ合った瞬間が大事なシーンであったとインタビューで答えていました。清王朝の権力者を日本人の自分が演じることへの限界は当然あるけれど、素直に自然体で演じ可能な限りその人物像に迫りたいと役作りについて語っています。(出典:人民中国)
実際のドラマを見ると、先入観がないからこそ権力者の一面だけでなく、日常を暮らした自然体の西太后を田中裕子さんの演技の中に見たように感じました。なお、田中裕子さんは笑うと優しい顔になってしまうので、撮影中は笑顔禁止だったそうですよ!
中国での田中裕子人気
おしん評
田中裕子さんは1955年生まれで、明治大学文学部演劇科を卒業した才女。24歳の時芸能界デビューし、女優として日本アカデミー賞最優秀助演賞など数々の賞を受賞するなど順調に実績を積んでいきます。
そんな中、1983年NHK連続テレビドラマ「おしん」で平均視聴率52.6%、最高視聴率は62.9%とテレビドラマ史上最高視聴率を記録し未だ破られていません。「おしん」は日本だけでなく、アジアやイスラム圏でも大ヒットし世界63か国で放送されています。
中国もそのうちの一つで、1977年に終結した文化大革命後の混乱した社会の中で、数少ない娯楽としてあったTVで放送されたという環境も手伝って、貧しい寒村に生まれた女性が数々の困難を乗り越えていく姿が人気と感動を呼び、中国での最高視聴率はなんと80%超だったといいます!
ただ、蒼穹の昴の撮影において、あまりおしんのことは語りたくないということが中国メディアには伝わっていたようです。
これについて田中裕子さんは「中国の皆さんが自分に篤い気持ちをもってくれていることに感謝しているけれど、「おしん」は自分が演じた役の一つで、この役柄に留まるのではなく、これから演じていく役が認められるように願っている」と、インタビューで答えています。(出典:人民中国)
おしんのイメージで留まることなく、挑戦を続けてさらにいい演技を届けたいというのは田中裕子さんの女優魂ですね!
ということは西太后に似ているかというところでも本来評価されたくないのかもしれませんね。田中裕子さんが演じた西太后がどう認められたかということについては、現在中国の動画サイト「豆瓣」での評価を見ると10点満点中8.8と概ね高評価を得ていると言えそうですね。
中国での共感
中国の50代以上の世代なら『阿信』(おしん)は本当に誰でも知っていますし、若い世代でも両親が好きだったということで知っている人が多いんですよ。むしろ日本人の方が田中裕子さんの名前を知らない人が多いかもしれません(笑)
日本と言えば「田中裕子」と同じくらい有名なのは「高倉健」。中国で初めて日本映画ブームを巻き起こした映画 作品は『君よ憤怒の河を渉れ』だといいます。1976年に制作された日本ではあまり知られていない作品ですが、上述の通り文化大革命後の中国で、娯楽がほとんどなかった頃に上映されたこの映画は熱狂的な人気を呼んだそうです。
しかも、主人公の高倉健さんは身長が高く、役柄の寡黙で立ち振る舞いの男らしさはかなり長く中国人女性の理想の結婚相手、男性にとっても憧れの男性像として語られる程でした。
高倉健さんの映画も、田中裕子さんのおしんも、中国の文化大革命で荒廃した社会の中で、勧善懲悪的な要素や、どんなにひどい環境にあっても努力し、人生をあきらめないという主人公の姿勢が大きな共感を呼んだのだと思います。
私も中国に住んでいたとき、タクシーの運転手さんなど日本人だと分かると「日本人なら高倉健は知っている」とか「『阿信』(おしん)を見ていた」と話をされたことが何度もありました。
まとめ
田中裕子さんと西太后、一見遠い存在のように見えましたが、誰も知らない西太后の日常の姿は田中裕子さんの演じたままだったかもしれない、とも思えるようになりました。
舞台化された『蒼穹の昴』宝塚公演も2022年11月7日まで。東京宝塚劇場は同11月26日~12月25日と、この名作がドラマや舞台で何度も見られるのは嬉しいですね。
【まとめ】
- 田中裕子と西太后はかなり似ている
- 田中裕子の中国での絶大な人気は1983年の「おしん」から
- 田中裕子は中国語が全く話せない